パン好き

 パン好きである。友人もパン好きが多く、郊外や住宅地にぽつんとあるパン屋さんをよく知っている。

 仕事に追われていると買いに行けないので天然酵母パンを焼くようになった。最初はパンを捏ねていたがパン焼き器を購入、40年間で3台買い換えた。強力粉も25キロの業務用を取り寄せていて、ピザやケーキ、たい焼きもこれを使用している。モチッとして自分好み。毎朝、バター&蜂蜜トーストとカプチーノで幸せを味わっている。

 

 ずいぶん前にジャンヌモロー主演のフランス映画を見た。

東欧の中年女性が介護していた肉親を亡くし、喪失感からフランスのリッチな老婦人(ジャンヌモロー)宅で住み込みの家政婦として働くことになる。

 ところが、この老婦人、つつましい暮らしをしていた家政婦の何から何まで気に入らない。きわめつけはパンだった。「スーパーで買ったパンはパンじゃない!」と床に落とした。 

 

 ショックだった、実はわたしもそう思っていたから。年老いたら自分では買いに行けなくなるという事実を突きつけられたのだ。

 タイから帰国し、パン好きの友人に安否確認の電話を入れたら、腰が痛くて出かけられないという。必要なものがあったら届けると言ったら、パンと果物が欲しいというのでパン好きには我が家のパンは気に入らないだろうと思って、「どんぐり」パン屋さんのならあるよ、と言ったら「それなら要らない」言われた。

 

 そして、コロナの自粛令。イベント好きの彼女はどうしているだろうと電話を入れた。声は元気そうだったけど気になって顔を覗きに立ち寄ったら、腰が曲がり年齢よりもずっと老いて見えた。寄る度に、天然酵母パンが買えなかった話しをするので「我が家のパンは天然酵母パンだよ」と届けた。

 その後、2週間ほどして、元同僚から自宅で倒れて入院中だという連絡があった。ディサービスの人に発見されたときは2日経過したあとで、まだ意識がはっきりしないそう。コロナ自粛令でお見舞いも行けないし、ラジカセを持っているから、声のお見舞いメッセージはどうだろう?と思案している。

 

 で、映画に戻るが老婦人は東欧の女性と親しい間柄になる。老婦人がどうなったかは覚えていなくて、ジャンヌモローの「への字」の口元は年を経ても素敵だった。

 

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