映画 「シェタリング・スカイ」ベルトリッチ監督 1990

 1990年、サハラ砂漠へ星を見る旅に出た。天と地がひっくり返るような強烈な異文化に触れたとき、人は自分の立ち位置を見失う。赤い砂漠とベルベル人コーランの祈り、ラクダのいななき、無窮の星が地に降り注ぐ中で、自分が何をして、どこで生きているのかを忘れた。それは麻薬のような作用がある。

 

 同じ年、「シェルタリング・スカイ」が上映され、アカデミー賞ほか、数多くの賞を受賞した。原作はアメリカの作家、ポール・ボールズの同名小説。彼は作曲家でもあり、異文化に憧れ、中南米やモロッコなどに暮らした。この小説は妻のジェーンと北アフリカのタンジェールに暮らした経験から、自分たちをモデルに書いたと言われている。西洋文明や消費文化に疲れ果てたポールズ夫妻は異文化を求め魅了され、旅に暮らした。

 

 作者の言わんとしていることがわからず、なんども映画館に足を運んだ。原作を読み、DVDを求めた。モロッコを旅したときの、あの迷宮に入り込んだような感覚を忘れられない。その後、横軸を移動する旅から山に登る旅、縦軸に移行するが、高さに関しても同じで、さらに高みへと憧れた。群青の空に吸い込まれそうな気がし、このまま消えてしまうような感覚を覚えた。

 

『空は明るいと言われているけど実は黒い。空の向こうへ行けば、それがわかる。空を信じてはいけない。人類を闇から護っているというわけだ。空の向こうは闇だから』ーポール・ボールズ。

 

 そして、映画の最後で言うポールズの言葉は意味深い。

『人は自分の死を予知できず人生を尽きぬ泉だと思う。だが全ての物事は数回起こるか起こらないか。自分の人生を左右したと思えるほどの大切な思い出を、人は何回思い浮かべるのか。4、5回、思い出すのがせいぜいだ。あと何回満月を見られるのか。だが、人は無限の機会があると思っている。』

 

 「シェルタリング・スカイ」 音楽:坂本龍一

 

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