「イスタンブル、イスタンブル」ブルハン・ソンメズ

 トルコの作家であり、1980年のトルコ軍事クーデターのなかで法律を学び、人権弁護士として政治活動に身を投じ、死に瀕する重症を負い英国に亡命する。現在は英国国籍を持ちスペインに暮らす。

 

 物語の舞台は、政治犯が拷問される牢獄であり、作者自身や身近な人々の体験が描き込まれている。窓のない1m✖️2mの牢獄に4人が押し込められ、拷問でズタズタに裂かれた仲間を必死で介抱する。美しいイスタンブルの地下牢で痛みにのたうちまわりながらも、一人一人が物語を語り謎をかけ、そして笑う。痛みに耐えながら囚人たちが拷問の合間に思い浮かべるイスタンブルは美しい。

 

 作者はインタビューで、なぜ地下牢なのかという問いに「イスタンブルの人々は、やれ渋滞がひどい、やれ物価が高いと現在のイスタンブルを嘆く一方、過去の黄金時代のイスタンブルの素晴らしさを讃える。その矛盾をイスタンブルの地下牢で地上のイスタンブルの美に憧れる囚人たちを通して描きたかった」と述べている。そして「過ぎ去った時間のすべてを現在に…今、人々の味わっている痛みのなかに集結させた」と言う。

 

 「『美』とは政治的なことばだ。美を守り、未来へつなごうと行動することが政治だ」とも。耳が痛くなる言葉である。