あらゆる心的外傷(トラウマ)問題のバイブルと言われている本である。『心的外傷と回復』は、1992年の初版刊行以来、平易ではない文章にも関わらず、世界中で読まれている。本書は、原書2022年版にもとづき、長大な「あとがき――心的外傷の弁証法は続いている(2015)」と「エピローグ(2022)」を付した増補新版である。
現在も続く、ウクライナへのロシア侵攻、イスラエルとパレスチナ戦争など市民を巻き添えにした争いに、心身ともに病む人が増えるばかりである。この本はアフガニスタン侵攻以後に表面化したアメリカ軍人、特に女性兵士の心的外傷、児童虐待の後遺症としての複雑性PTSD、カトリック教会による組織的な性虐待などの問題を取り上げ考察しながら、この30年間の心的外傷研究を提示している。
ハーマンは最後に:
『結局のところ、心的外傷を癒すためには身体と脳と心を一つに統合することが必要なのだという、基本に立ち戻ることになる。まず安全な場をもつこと、そして思い出すこと、服喪追悼すること、そしてコミュニティにもう一度つながることである。…回復の土台石となるのは、心理療法と社会的支援である。この原理は、どんな治療技法によっても、どんな薬物によっても変わることはない』と結んでいる。
ーーー健やかに子供たちが育つ世の中であってほしいと心底願う。