故郷

 故郷の港の風景画を頼まれた。写真からデッサンを起こしたら、不覚にも眼が潤んだ。

夏の朝、イカ干しを手伝ったり、砂浜に石を並べて夢の家の見取図を描いたり、陽に温められたコンクリートにペタペタと濡れた足跡をつけ海に飛び込み、この岬の崖を攀じ登って遊んだ。幼馴染と貝を拾い、ウニを獲り、海に沈む夕陽を眺めて過ごした日々。自分を形成してくれたのはこの小さな漁村なのだと思った。

 

 子育て中は、お墓参りを兼ねて帰省し、数倍に増えた四人妹弟の家族、私の友人も参加して実家は合宿所のようになった。毎朝、10パイのイカ刺しを作り、昼は海で収獲したウニ・アワビ丼。夜は定番の干したイカの足を叩いた天ぷらでビールを飲む。西陽の当たる小さな台所を「かもめ食堂」と呼んだ。みんなで海に遊んだ懐かしい日々。なんて素晴らしい時間だったのだろう......。

 ーーーこの絵に遠い日の思い出を閉じ込めよう。

 

 

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