「神なるオオカミ」ジャンロン著

 内モンゴルに生息していたオオカミの物語。

1960年半ばの文化大革命時代、毛沢東は都市と農村の格差をなくする政策で、一定の学問水準を持つ知識青年を農村や内モンゴルに「下放」した。著者は11年間を内モンゴル遊牧民として暮らす。そこで出会ったのはオオカミを神として暮らす遊牧民の生き様だった。この本は33年間の構想を経て2004年に出版され、中国にオオカミブームを引き起こした。

 

 物語は著者が夜道を馬で帰宅するところから始まる。古老が近道はしないようにと忠告するが近道をしてしまう。オオカミにつけ狙われ、馬が道を知っていたことで九死に一生を得る。賢くスマートなオオカミの特異性に惚れ、獰猛なオオカミの子供を育て始める。

 中国の歴史を背景に人類学的にも興味深く読める。特に人間の気質として、遊牧民族と農耕民族の違いは明確である。また考古学的にも縄文時代遊牧民的であり、擦文に入ると稲作が入り定着することで階級が生まれたといえよう。

 

 動物が主人公の物語で感銘を受けたのはジャック・ロンドンの「荒野の叫び声」以来だ。またオオカミは親子の情が深いとも言われる。人間の赤ん坊を育てた話もある。そういば、子供の頃、祖母にオオカミ少年の話を読んであげていた。オオカミに育てられた少年の話である。

 ーーー オオカミを撲滅させたことでひとつの自然体系が壊れたといえる。

 

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