「北の話」に驚くべき話が載っていた。幻の深海魚、「オオヨウ」である。シナリオライターの吉岡道夫氏が「オオヨウ名人」というタイトルで寄稿している。
母がまだ存命の頃、毎年お墓参りに帰省していた。ある朝、母が「オオヨウを売りにきた!」と興奮している。外に出ると、隣村の軽トラの拡声器が「オオヨウ、オオヨウ!」とがなりたて、おばさんが「滅多に食べれるもんじゃないよ!」と言っている。
母によると、嫁に来てから数回しか食べたことがないそうだーーと言うことは、50年のうちの数回ってことだ。1キロ位の塊が4、5千円したと思う。気前よく買ってくれたので驚いた。「まあ、食べてみろ、食いたくても食えんから…」ということだ。
オオヨウはソイのようにコシのある白身の魚で、脂がのりコクもあり、刺身の王様と言える。これ以上の美味しい刺身は他にないだろう、と断言できる。
オオヨウの正式名はスズキ科イシナギで、体長は2メートル位あり、水深200メートルの岩場に隠れていて、鼻先の餌にも食い付かない「鷹揚」な魚だから、そんな名前になったんだろう、と釣り名人の漁師が言ったそうな。浜でさばいて市場に出まわることはなかったそうだから、もしかして私は幻の深海魚、オオヨウの刺身を食べた生存者かもよ?