「つむじ風に巻き上げられて」安酸敏眞

 北海学園大学学長の著書である。学園大在学中に「欧米思想史」を受講し、なんて頭のいい先生なんだろう!と尊敬の眼差しで、一言も漏らすまいと聴いていた。

 何が素晴らしいかって、難解な思想史をいともわかりやすく説明するのである。なんだか頭が良くなった気がしてすっきりした。当時のブリントとノートはヨーロッパを理解する指針となっている。

 講義中、息継ぎのように「勉強は暇じゃないとできない…」と呟き、一番前にいたわたしは顔を上げた。安酸先生はプリントに目を落としたまま独り言を言ったのだ。ーーー確かにと思う。そして、どんだけ勉強したのだろうと、学問の道のりを思っていた。

 

 略歴によると、京都大学博士課程を経て、その後5年間をアメリカとドイツの大学に留学し、オックスフォード大学から「レッシングとドイツ啓蒙」を出版している。キリスト教思想史に関する著書も多い。

 身近に感じたのは、学生に対して、海外に出ることの大切さを説いている。そうなのだ、「百聞は一見に如かず」言うではないか。外に出ないと日本のこともわからない。

 ひと昔も前、ローマのボルゲーゼ美術館を訪れ、ベルニーニの「アポロンとダプネ」を見た時のあの感動は、写真で受けることはない。大理石に押しつけられた柔らかな手の窪み、肌の下に赤い血が流れているように感じ、思わず触れようとして手を固く握った。

 同じ感動をすっきりとした文章で述べていて、文筆家としても素晴らしいと思う。

 

 先日、お世話になった教授のお招きで光栄にも学長と会食する機会を得た。緊張してお目にかかったのだけど、講義をされていた頃と変わらず、恥ずかしそうな笑顔に親近感を持った。素晴らしい先生に出会えたことに感謝する。