友遠方より来たる

 長野に住む山友が出張で来札。山岳会に在籍していた頃の思い出話しに花が咲く。

あの頃、私は山旅エッセイを執筆していて、彼は博士論文に取り組んでいた。「論文を書いているなら、私の原稿に目を通して」と頼んだら、多忙にも関わらず草稿を読んでくれた。曰く、「文章のテンポはいいが形容詞の使い方がおかしいので、本田勝一の『日本語の作文技術』を読んだらいい」とアドバイスをしてくれた。そのおかげで編集者の目を通り、駄目出しもなく無事に出版にこぎつけたのだった。

 

 彼はショウジョウバエの研究をしている。「ショウジョウバエって学校で習った遺伝子のアレ?」と聞くと、4000種ほどあり体長は1.5mm~2mm、それを顕微鏡を使って分解すると聞いてたまげた。ドイツ製のレンズでないと見えないんだそう。そのミリ単位のハエの前足がギザギザになっていて、そこで花粉を集めるのだけど、どうも花弁も刮げているらしいと言う。理由は何だろう? そもそもそのハエはなんかの役に立つの? と疑問は尽きない。

 

 曰く、役立たないからいいのだそうで、役立つものだけで形成される世界はおかしいでしょ、と言うことでミリ単位のショウジョウバエの世界を肴に冬の夜長を楽しんだ。

 ーーー彼はショウジョウバエに恋してる