猫天使 fuchan

 息子が進学のため家を離れた春から反抗期真っ只中の娘とギクシャクしだした。通勤途中にあったペットグッツ・ショップの「猫あげます!」の張り紙を見て、ペットショップに猫を見に行った。

 

 あげます!猫は生後六ヶ月ほどの黒猫で、もう子猫じゃなかった。「もっと、小さいのがいいね?」と娘に言ったら、すかさず毛糸玉のような子猫(売り猫)を娘の手に乗せた。子猫はゲージに戻ることなくそのまま我が家にやって来た。

 娘の態度はがらりと変わった。いままで何を言っても「ん、もう!もう〜!」だけで襖の向こうにいるのは牛じゃないか?と思うほどだったのに「ふうちゃん、なんか言ってるけど〜!」と言うだけで部屋から飛び出てきた。

 

「なんかこの猫、顔がぺったんこだね?」と言うと、「ふうちゃん、お母さんの前で横向いちゃいけません!」と大真面目でしつけていて、笑えた。鳥のササミが好きであげると興奮し、わんわん言いながら食べるので「行儀悪くない?」と言った時も「ふうちゃん、食べる時は静かにね」などとと言いつけていて、おかしかった。

 猫の方も餌をくれるのが私で飼い主は娘だと区別し、私が呼んでも尻尾をパタリだけなのに、娘が呼ぶとすっ飛んで行った。寝ていても娘が開ける一階の玄関の引き戸の音を聞き分け、むっくり起きて「ずうっと待ってました!」という顔でドアの前に座った。ドアを開けたとたんに、にゃあにゃあと8の字に纏わりつき「ほんとうは寝てたでしょ?ヒゲに寝癖がついてるよ!」と言われていた。

 娘が東京に進学する時も付いて行き、猫は就職した息子のアパートで一緒に暮らした。札幌〜東京を行き来していたが息子が札幌に戻り、ペット不可のアパートになって猫は札幌定住となり、バイクに乗せられたり、海外の山に行く時は友人宅に預けられたりで落ち着かない暮らしになってしまった。

 

 そして、13年後に肺がんになった。娘が体調を崩し帰省していたときで、ひと月ほどして「東京に戻る」と息子の車で千歳に向かう途中に猫の容体が急変した。娘に電話をして家に戻した。娘も息子も無言。わたしは号泣。両親が逝った時よりも悲しかった。

 春にやってきたふうちゃんは、幸せを振りまいて13年後の春に猫天使になった。

 

f:id:fuchan1839:20210314121822j:plain