小林秀雄 講演

 小林秀雄の講演を聞いている。昭和36年〜53年、九州の会場で5回に亘って学生のために開催された講義である。思想研究の場「合宿教室」として企画され、全国64余もの大学から350〜450名の学生が参加した。

 

 大思想家の講義である。さっぱりわからないんじゃないか?と思いきや、そうじゃない。これが落語を聞いているように面白くて、聴衆からも笑いを取っている。ちょっと甲高い声なのも落語的と思って聞いていると、大先生は噺家古今亭志ん生が好きなんだそう。なるほどね、間の取り方や笑いの取り方が絶妙である。

 

 バッサリと切り捨てる毒舌家であり、学生たちの質疑応答にも手厳しいが、人間味があり笑える。難しい話ばかりかと思うとそうではない。例えば、文章を書くのに、「雨が降っている」なら「雨が降っている」と書けばいいのに、余計な飾りを入れるから良くないのです、と言う。上手い人は文体のリズムを持っているのだそうで、それが素晴らしい文章になるのだとのこと。なるほどね、と深く感心してしまった。

 

 山桜の話も面白い。桜といえばソメイヨシノだが、丈夫で扱いやすいから、お上が推奨し全国に植えたからに過ぎないと述べ、日本古来の山桜の奥ゆかしさを絶賛する。ーーー知らなんだ…。

 ここで、本州生まれの友人が「北海道の桜は下品、ソメイヨシノの淡い色に比べて」と言ったことを思い出し、俄然いい気分になる。蝦夷山桜の濃いピンクは、冬を半年過ごす北海道人には嬉しい色で、「山笑う」の俳句の季語そのもの。味方を得たように嬉しくなった。

 

 講義を全部聞けたのはコロナ自粛生活のお陰かも?ここ数十年こんなに長く家にいることはなかったもの。ーーーそろそろ何処かに飛んで行きたい。

 

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