「亜鉛の少年たち」スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

 「戦争は女の顔をしていない」「ボタン穴から見た戦争」などの著書で有名なスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは2015年にノーベル文学賞を受賞している。

 「亜鉛の少年たち」は、開けられない亜鉛の棺に入れられた少年たちのことである。アフガニスタンへ送り出されたソ連の若者たちは、戦闘でズタズタにされた肉体を、亜鉛の棺に封印され無言の帰国をする。「国際友好の義務を果たす」という政府の方針のもとに戦場に送られた若者は、生きて帰っても、癒し難い傷を負い、鉛のような心を抱えて苦しむ。

 著者は、帰還兵、現地兵士、事務員、看護師、戦没者の母親や妻たちに取材し、書き留め、真実を追求し、硬い封印を解いていく。

 この新版では、本の内容をめぐって証言者から告発された裁判の顛末などを加筆、旧版の2倍の内容になっている。告発の裏に政府の圧力が見え隠れする。

 

 今も続く、ソ連ウクライナ侵略戦争ウクライナの死者は7万人、ロシア軍兵士は31万5千人に上る。そして、中東では、ガザ地区を攻撃するイスラエル軍の戦闘から100日をむかえ、ガザ地区の犠牲者は2万4千人を超えた。その7割が女性と子供という。

 本で読んだ痛ましく壮絶な現状が、今も続いているのである。戦争に巻き込まれるのは幼気な子供たちで、怯え泣き叫んでいる。歴史は繰り返す、戦争もまたしかり。

 

 裁判で、アフガン帰還兵が述べる。『アレクシエーヴィチはアフガンの「暗黒面」を意図的に強調して描いている。だから母親であれば、息子がそんなことをするはずがないと思って当然だ。でも俺はそれ以上のことを言おうーあの本に書かれたことなんて、現実の戦争に比べたらかわいいもんだ。ほんとうにアフガンで戦った奴なら誰でも、胸に手を当ててそう断言できる。』ーーー戦争の残酷な悲惨さに声も出なかったが、この言葉に息が止まるかと思った。