「未完の巡礼」神長幹雄 著

 ジュンク堂の山本コーナーで懐かしい名前を見つけた。

社会人学生だった2005年、7大陸最高峰を踏破し、学業と併合して本の原稿を書いていた。1年がかりで纏めて東京の大手出版社に持ち込んだ。その時、対応していただいたのが神長幹雄氏である。結論から言えば出版できなかったのだが、原稿を読んでくれて「本になる」と言われ何度か上京した。

 

 今、出版業界は経営が難しく、田部井淳子氏の原稿も断っているとのこと。あんなに文章が上手い服部文祥の原稿も出版会議は通らず、みすず書房から出版されたとのことだった。テレビ放送と抱き合わせなら出版可能とのことで、HBC放送局に持ち込んだ。日高登山で知り合ったディレクターが「人間力」という番組の題材になるとのことで密着取材を受けていたが、番組自体、当時の首相の事業仕分けでボツになってしまった経緯がある。ーーー本は地元の北海道新聞社から出版してもらえて大変有難かった。

 

 さて、著者が取材で関わった6名の冒険者たちへのオマージュである。植村直己/長谷川恒男/星野道夫/山田昇/河野兵市/小西政継。この6人のうち4人が43歳で亡くなっている。

 

 もちろん、わたしもよく知っている有名な登山家であり冒険者である。当時、彼らの山や冒険の世界に想いを馳せていたので訃報は心が痛んだ。その後、バックパッカー旅に出て山に登るようになり、彼らを虜にした大いなる自然に魅せられた。

 この中で話したことのあるのは星野道夫氏だけ。星野がフィルドワークとしたアラスカのマッキンリー(デナリ)に植村と山田は眠っている。登山基地のタルキートナーで山田昇のお墓参りをし、マッキンリーに登った。植村は登頂後デナリパスの辺りで消息不明となったと聞いている。

 

 山の遭難本をよく読んでいたので、あの時代が蘇ったように思える。冒険者たちはどこに浮遊しているのだろう。著者が現地を巡礼し、祈る姿が目に見えるようである。

 

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