「ナーパム弾の少女」五〇年の物語 藤えりか

 70年代のベトナム戦争。72年6月、ベトナム南部の農村でパーナム弾攻撃にさらされ、裸で逃げ惑う少女の写真は世界に衝撃を与えた。撮影したのはベトナム人のカメラマン、ニック。この一枚の報道写真は後にピュリツァー賞を受賞し、戦争の歴史を変え、ベトナム戦争終結させたとも言われている。

 

 ナパール弾の火傷は悲惨なもので、少女は包帯でぐるぐる巻きにされ、遺体安置所に放置される。しかし、少女は生き延び、戦後は社会主義になった体制下で、貧困と火傷の後遺症に苦しみながら、政府の厳しい監視下で社会主義の広告塔にさせられる。

 

 この少女、キム・フックが、ことごとくに夢を打ち砕かれ、心底自由を求め、キューバに留学し、パートナーを得てカナダに亡命するドキュメンタリーである。彼女の強さと逞しさに圧倒される。帯に「どんな過酷な逆境下でも懸命に、そして賢明に生きる」とあるが、孤独と貧困の中で、身をもって知った深い洞察と決断力、聡明さがある。

 

 毎日のように報道される、ロシアによるウクライナ侵略。今もベトナムと同じことが繰り返されている。膨大な数の市民が犠牲になり、子供達が泣き叫んでいる現状に合わせ、息が詰まった。