生前、円山の小さな画廊で一原さんにお会いしたことがある。小柄で少年のような目をしていた。山が好きで、山の油彩画を描いたり、山の小説を書いたりと多才だった。
山岳会に在籍し岩登りをするようになり、小樽の赤岩に通っていた時に、一原さんと親しくしている方に出会った。一原さんは一度もヒマラヤに行ったことがないのに、ヒマラヤの峰々を知り尽くしていると言う。その人が持っているヒマラヤの銅版を見せてもらった。
欲がないというか、褒めるとすぐにくれるんだそう。そんなに一原さんの作品が好きなら、アトリエに連れてってあげると約束してくれたが、その後、海外山行にのめり込んで資金稼ぎとトレーニングで忙しくなり、一原さんのアトリエを訪れることはなかった。
一度、作品を買おうと思ったことある。厚みのある歪んだ鏡のような作品で、赤い線が入っていた。部屋にかけたら、光と外の風景を写し込んで素敵だろうと想像した。あの作品は今どこにあるのだろう。