「天災か人災か?松本雪崩裁判の真実」泉康子

 1989年3月、長野県山岳総合センターが主催した雪山研修会で起こった雪崩事故のノンフィクションである。筆者は家族の病気で10年近く中断し、今年3月に出版に漕ぎつけた。

 

 雪崩に巻き込まれて死亡した高校教師の母、三重は県を相手取って訴訟を起こす。原告の中島弁護士は膨大な取材と裁判の記録から、「雪崩は天災か人災?」に焦点をあて雪崩のメカニズムを立証し、雪のない時期の地形測量や植生の観察、降雪期現場検証、さらに裁判官と書記官まで現場に立たせ、常識を覆してゆく。母、三重や中島弁護士の生い立ちも盛り込まれ、読み応えのある展開になっている。

 日本独特の組織の中で、もがき苦しみ、粘り強く諦めずに、裁判の傍聴者を募り、雪崩のメカニズムを多くの人に知ってもらおうと署名運動をし、5年後に勝訴する。

 

 記憶に新しいのは、2017年、栃木県那須岳の訓練中の雪崩事故である。8名の生徒が亡くなり、40名が負傷した。34年前の事故の経験が全く活かされることなく、両親はどんなにか無念だろう思う。

 

 私は10年間、社会人山岳会に在籍していた。最初に在籍した「札幌山の会」で故、三和氏の指導のもと、買わされたのはビーコン、スコップ、ゾンデ棒であり、冬山の3種の神器?と言われていた。その後、移籍した「札幌中央労山」の冬山訓練や救助訓練などで、弱層テストなど雪崩のメカニズムを学び、また巻き込まれそうになった山行もある。

 

 雪崩事故が起こる度に、それは人災だと思う。北海道人は雪に親しんでいるが、その恐ろしさは半端ない。雪の連峰は神々しく、人を魅了する。自然界は人間の小さなミスを決して見逃さず、魔物のように襲ってくる。