午後。さあ、絵を描こう、と思っていたところにチャイムが鳴った。
ドアを開けたら、郊外に住む旧友が立っている。
「あんた、ダリア嫌いだって言ってたけどさ、あんまり見事だから絵描くのにいいと思って!」と胸に大きな新聞紙の包みを抱えている。そして、
「雨、降りそうだからさ。直ぐに帰るわ」という。
「えっ、なんで来たの?」と私。
「ママチャリよ。1時間ちょっとかかったわ」
「切り替え付いてんの?」
「ないよ、そんなもん」
「え〜、よくきたね!まあ、お茶くらい飲んでよ」とお茶を出すと、
「冷たいものは飲まないんだ。はちみつ入りの水持ってるからいいよ。きびだんご食べたら帰るわ!」と、ポケットから桃太郎のきびだんごを出した。
「懐かし〜!今もこんなの売ってるんだ?」と驚く。聞くと、気に入って箱買いしているという。
「それにしても、いきなりやってきて、田舎の人だねぇ...」と嬉しいやら、呆れるやら。
「やあ、朝起きた時は思いつかなかったんだよ。花があんまりすごいからさ」だって。きびだんごを食べ終わったら、そそくさと帰って行った。
そのダリアだけど、子供の頭ほどあって怖くて絵を描く気になれない。
昔、絵の友人が個展でいただいた君子蘭を置く場所がないからと我が家に持ってきた。見事な花を付けていて、娘が夜トイレに行くのが怖いという。
そう言われて夜、鉢に目をやると、ベランダ越しの明かりに浮かび上がる花は存在感があり、何かもの申しているみたいで不気味だった。
あの君子蘭はどうなったんだっけ?たぶん、花の好きなご近所さんに貰っていただいたと思う。